見た目の愛らしさはもちろんのこと、例え人に飼われても自由に己の感性のまま、しなやかに生きる猫の姿は妖しく美しく、神秘性まで感じさせ、名のある芸術家や権力者を魅了してきました。
今回は猫を愛してやまなかった有名人と、そのエピソードをご紹介します。
あの有名人も猫が好き
イスラム教では猫は神聖な動物です。
それもそのはず開祖のマホメットは猫が大好き。礼拝服の上で眠っている猫を起こしたくないがために、ナイフで袖を切り離したという逸話が残っています。
彼の他にも、猫にメロメロだった偉人は多いんです。
エイブラハム・リンカーン
奴隷解放の父であり、今なお敬愛される第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーン。
彼はホワイトハウスで初めて猫を飼った人物でもあります。
奥様をして「夫の趣味は猫」と言わしめる彼の猫愛は戦地でも変わりません。
南北戦争中に南部へ視察に行った際には、戦火で母猫を亡くした三匹の仔猫を保護し、部下に世話を命じました。
その後何度も仔猫達の様子を気に掛けていたそうですが、激務の中で簡単に出来ることではありませんよね。
また猫だけでなく鳥や家畜に対しても慈悲深く「犬や猫を大事にしない者は信用しない」という名言も残しています。
重い責任を背負う彼にとって、猫が与えてくれる癒しは掛け替えのないものだったのでしょうね。
天璋院篤姫
13代将軍徳川家定の正室である篤姫。彼女は犬も猫も好きだったそうですが、夫が犬嫌いだったため三毛猫の「さと姫」を大奥で溺愛することになります。
このさと姫には三人のお世話係が付きました。
銀の鈴が鳴る紅絹のヒモの首輪を着け縮緬の布団で眠り、篤姫とともに専用の御膳で食事をとりました。
雛祭りや誕生日を祝うこともあったとか。まさにお姫様ですね。
篤姫の輿入れの2年後に、家定は若くして亡くなってしまいましたが、さと姫とは16年の歳月を共に過ごすことになりました。
芸術家と猫は相思相愛!?
猫が自由に生きる姿は芸術家達のインスピレーションを刺激したようです。
かのレオナルドダヴィンチは「猫こそが芸術の最高傑作である」と絶賛しています。
サルバドール・ダリ
シュルレアリスムの大家サルバドール・ダリはホームレスからオセロット(山猫)の仔猫を買い取ります。
その後もオセロットは数を増やし、その中の一匹「バブー(ヒンディー語で紳士の意味)」は特にダリのお気に入りでした。
小型の豹のような美しいオセロットの気性は、イエネコ以上に自由を愛するものだったことでしょう。
当時ヨーロッパでは美しい野生動物を飼育するのがブームであり、豊かさのステータスでもありました。
ダリは旅先やパーティーにもバブーを連れて行きますが、常にファーストクラスで旅をし泊まるホテルは五つ星クラス……まさにセレブ猫です。
オセロットとダリのポートレートが残っていますが、両者の独特な風貌が相まって相当目立ちますね。
天才は孤独と言いますが、奇行とも呼べるダリの行動の数々
(象に乗って凱旋門に行くとか、オノヨーコに自分の口髭一本を一万ドルで売っておいて葉っぱを送りつけるとか)は、常人には理解しがたいものだったでしょう。
しかし、そのほとんどが実は芸術家としてのパフォーマンスであり、本来は繊細で気配りのできる人物だったといいます。
ダリにとってバブーは富の象徴であり、理解しあうことすらも超えてお互いが自由にいられるパートナーだったのかも知れません。
藤田嗣治
日本で生まれ、パリで活躍した画家で彫刻家の藤田嗣治は、女性、そして猫の作品を多く残しています。
彼は猫について
「ひどく温柔(おしとや)かな一面、あべこべに猛々(たけだけ)しいところがあり、二通りの性格に描けるので面白い」
と述べ、また、なぜ猫と女性を描くのかという質問に対して
「女はまったく猫と同じだからだ。可愛がればおとなしくしているが、そうでなければ引っ掻いたりする。御覧なさい、女にヒゲとシッポを附ければ、そのまま猫になるじゃないですか」と答えています(『巴里の昼と夜』より)。
20代で単身日本からパリに移り住み、孤独や日本で教え込まれた美意識を覆すカルチャーショックを感じる日々の中、歓楽街で拾ってきた野良猫達を友として暖かいく見守っていたのがうかがえます。
そして当然というかなんというか、女性に対してもマメな紳士だったようで、大変モテたそうですよ。
文豪と猫
夏目漱石の「吾輩は猫である」はあまりにも有名ですね。
彼の愛猫が亡くなった時は門弟や友人に宛てて、猫の訃報を黒縁の葉書で送っています。
大佛次郎
大衆歴史小説「鞍馬天狗シリーズ」やノンフィクション「パリ燃ゆ」を著した大佛氏は他に類を見ない愛猫家。
作家としての功績もさることながら、猫飼いとしての偉業に驚かされます。
なぜなら生涯で面倒を見てきた猫の数、実に500匹!
くる〇こ大和さんやムツ〇ロウさんもびっくりです。
もちろん、どんなに好きでも節度は必要でした。猫の定員を決め、15匹以上になったら猫に家を譲り出て行くと、同じく愛猫家の妻と約束していました。
がある日、家の中で16匹の猫が食事をしているではないですか。
「おい、一匹多いぞ。俺は家を出るぞ」
すると奥様
「それはお客様です。ご飯を食べたら帰る事になってます」
通いの猫だからセーフ!という言い分です。
結局この通いの猫は、後に仔猫を連れて住み込み猫に昇格することになるのですが(笑)
このエピソードが収録されたエッセイ「猫のいる日々」。おすすめです!
谷崎潤一郎
文豪を題材にしたゲームや漫画作品では、尊敬の念を込めてもれなく「変態」として描かれる谷崎氏ですが、猫への愛も実に偏執的でした。
生涯で数十匹の猫を飼いましたが、愛して止まなかったのは西洋猫。女性の美しさを猫にも見出していたようで、特に雌猫を可愛がりました。
特筆すべきはペルシャ猫の「ペル」。
彼女の亡骸は剥製となって今も残っています。
猟奇的な悪趣味とも取れますが、女性美を拝跪し不朽の物としたかったであろう谷崎氏にとって、最大の愛情表現ではないでしょうか。
いかがでしたか?
強烈なエピソードもありましたが、決して猫好きに変わり者が多い訳でなく、皆が芸術家肌な訳でもありません。
いつの世も猫を崇めて止まない人間がいて、それを受け流す猫がいるだけです。
愛されるのが当然なんでしょうね。だって猫だもの。